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静岡地方裁判所 昭和50年(ワ)258号 判決

主文

原告の主位的請求を棄却する。

被告は原告に対し別紙目録記載の手形を引渡せ。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

この判決第二項は仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「主位的請求として、被告は原告に対し五〇〇万円及びこれに対する昭和四九年七月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。予備的請求として被告は原告に対し別紙目録記載の手形(以下本件手形という)を引渡せ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一  主位的請求

(一)  訴外片山進一(以下片山という)は左記約束手形(以下本件手形という)を振出した。

金額 五〇〇万円、満期 昭和四九年三月二五日、支払地振出地共 清水市、支払場所 株式会社清水銀行本店営業所、振出日 白地、受取人 白地

(二)  被告は本件手形の第一裏書人欄に署名捺印してこれを被裏書人白地のまゝ訴外市川義郎(以下市川という)に交付譲渡した。市川は満期に本件手形を片山及び被告方に持参して呈示し、本件手形金の支払を求めたが、拒絶された。

(三)  原告は市川からその後に本件手形の譲渡を受け同年七月頃これを被告方に持参し支払を請求したところ、被告は本件手形を同月二八日まで一時預からして欲しい、同月二八日までに返還しない場合は本件手形金五〇〇万円を支払う旨を約した。

(四)  そこで原告は被告に対し本件手形を預けたが、被告は同月二八日を徒過するも本件手形を返還しない。

(五)  よつて原告は被告に対し本件手形金五〇〇万円及びこれに対する弁済期の昭和四九年七月二八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  予備的請求

本件手形は原告の所有に属するが、被告はこれを占有しているので所有権に基き被告に対し本件手形の返還を求める。

被告訴訟代理人は「原告の主位的及び予備的請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、第一項(一)は認める。同(二)のうち被告が本件手形の第一裏書人欄に署名捺印したことはあるが、その余は否認する。市川は満期に本件手形を支払場所に呈示したが支払を拒否されたのである。同(三)のうち原告が満期後に市川から本件手形の譲渡を受けたことは知らない、その余は否認する。同(四)のうち被告が原告から本件手形を預かつていることは認めるも、その余は否認する。同(五)は争う。第二項のうち本件手形が原告の所有に属すること、これを被告が占有していることは認める。旨述べ、主張として次のとおり陳述した。

市川は本件手形を振出日・受取人白地のまゝ満期に支払場所に呈示したので、適法な呈示とはいえず、遡求要件を具備していないから本件手形の第一裏書人である被告は原告に対し本件手形金を支払う義務はないが、原告が気の毒なので、被告は昭和四九年七月一六日頃原告のために振出人の片山から本件手形金を取立てゝやる約束で本件手形を一時預かつた。従つて被告は原告に対し昭和四九年七月二八日までに本件手形を返還しないときは手形金五〇〇万円を返済すると約束したことはない。

(立証省略)

理由

一  主位的請求について

片山が本件手形を振出したこと、本件手形の第一裏書人欄に被告の署名捺印があること、被告が昭和四九年七月頃原告からその所有にかゝる本件手形を預つたことは争いがない。

原告本人尋問の結果に成立に争いのない甲第一号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告は昭和四九年二月中頃本件手形の第二裏書人欄に署名捺印をしている市川の依頼で本件手形を割引し、市川から振出日及び受取人白地の本件手形の白地裏書を受けたこと、その後市川に本件手形を一時預けたところ、市川は満期に支払場所に本件手形を呈示したが不渡となつたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

原告はその本人尋問において昭和四九年七月一六日頃被告会社代表者奥村守衛(以下奥村という)が原告方に来て「片山の親が本件手形金を支払うというので本件手形を同月二八日まで貸してもらいたい、右日時までに片山の親と話をつけ現金五〇〇万円をもつてくるか、それができないときは片山の親が振出した金額五〇〇万円の手形に被告が裏書した上原告に交付する。」旨約束したので、本件手形を奥村に預け、その預り証として甲第一号証を受けとつた旨供述しているが、右は前掲甲第一号証及び被告代表者本人尋問の結果に照して採用できず、他に原告主張事実を認めるに足る証拠はない。

かえつて前掲甲第一号証、成立に争いのない甲第二号証、乙第一号証に被告代表者本人尋問の結果を総合すると、被告会社代表者奥村は味噌の卸店を営む片山及び知人の今野守男に頼まれ、保証の趣旨で片山振出しの本件手形の第一裏書人欄に署名捺印したところ、片山が本件手形の満期日前である昭和四九年三月初頃商売に失敗し夜逃げしたので、本件手形の行方を捜したところこれが市川の手許にあることを知つた。そこで奥村は同月八日頃市川から本件手形を満期の同月二五日に返す約束のもとに預かり、片山の父親のもとに赴き本件手形金の支払を請求したが成功しなかつたので、同月二五日頃これを市川に返還した。市川は同月二五日支払場所に本件手形を呈示したが、片山が夜逃げした後なので不渡となつた。その後同年六月末頃奥村は本件手形に被告の裏書がある以上手形金支払いの責任があるものと考え、再び片山の父親に請求するため市川に本件手形の貸与方を申込みに行つたところ、市川が本件手形の所持人である原告を引き合わせたので、奥村は従来のいきさつを述べ、片山の父親に本件手形金を請求するから同年七月二八日まで本件手形を貸してほしい、もし本件手形を紛失、破損したときは手形金額五〇〇万円を直ちに支払う。又片山の父親から五〇〇万円の支払を受けた時は原告に引渡すし、片山の父親が現金の支払にかえて書換え手形を振出したときは、その手形に被告が裏書して原告に引渡す旨を申出、本件手形を原告から一時預つた。その後奥村は市川と共に片山の父親のところや大阪にいる片山の妻のところに赴き、本件手形金の支払を請求したが、支払を受けることができなかつたので、本件手形を預かつたまゝにしておいた。

以上認定に反する原、被告本人尋問の各結果は前掲各証拠に照して採用できない。

以上のとおり被告が昭和四九年七月頃原告に対し同月二八日までに本件手形を返還しないときは五〇〇万円を支払う約束をした事実を認めるに足る証拠はないから原告の主位的請求は失当である。

二 予備的請求

本件手形が原告の所有に属すること、被告がこれを占有していることは争いがない。

よつて所有権に基きその返還を求める原告の予備的請求は理由がある。

三 以上の次第で原告の主位的請求は理由がないからこれを棄却し、予備的請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(別紙)

目録

左記約束手形 一通

振出人     片山進一

金額      五〇〇万円

満期      昭和四九年三月二五日

支払地振出地共 清水市

支払場所    株式会社清水銀行本店営業所

振出日     白地

受取人     白地

第一裏書人   被告

第二裏書人   市川義郎

第三裏書人   原告

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